合併症

高確率で起こる脳血管の異常な収縮(血管攣縮)

くも膜下出血の合併症として最も起こりやすいのが「血管攣縮」。脳内の血管が縮んで血液の流れが悪くなる現象で、くも膜下出血の患者さんの30~70%に生じます。この血管攣縮の原因や症状、治療法などについて概要をまとめます。

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くも膜下出血の合併症再出血とは

くも膜下出血を引き起こし、一時的に止血をしたとしても何らかの拍子に再破裂・再出血をするリスクがあります。くも膜下出血の初回出血で一命を取り留めたとしても、再出血で命を落とすことも少なくありません。

発症時期とその症状

再出血リスクが高いのは発症当日

くも膜下出血で再出血が起こるリスクは、発症から24時間以内が最も多く、発症早期に多いと言われています。

クモ膜下出血後の再出血率は発症初日が3〜4%で以降4週間は 1~2%/日という報告、最初の1か月では20~30%、3か月以降は 3 %/年という報告がある。

出典:日本神経治療学会『脳卒中治療ガイドライン2009-Ⅳ.くも膜下出血』[pdf]

くも膜下出血の発症から1ヶ月以内に再出血する患者の割合は約半数。もしも、くも膜下出血を発症した場合は、止血とともに再出血の予防が何よりも大切です。

再出血の程度と予後

再出血が起こるとどうなる?予後に残る後遺症は?

くも膜下出血発症後に再出血を引き起こすと、高い死亡率と予後の状態を悪化させるなどの影響があります。遅発性脳血管攣縮と並んで予後を悪化させる因子ですから、初期治療でいかに再出血を予防するかが大切となります。

くも膜下出血急性期で再出血するケースは、重症度が高い場合に多く見られます。 再出血で頭蓋内圧が亢進すれば、脳内を流れる血液量が減り、意識障害などを引き起こします。脳ヘルニアをきたしてしまえば、呼吸機能が低下し、命を落とすことも。また再出血から一命を取り留めたとしても、脳血管攣縮が引き起こされ、脳にダメージが与えられれば半身麻痺・言語障害といった後遺症が残るリスクは高くなります。

治療方法

再出血を起こさないための予防が大切!

再出血を予防するためには、絶対安静を保ち、可能であれば再出血を予防するための外科手術を行います。また、看護するうえでも、再出血を引き起こさないための血圧コントロールなどが行われます。

発症直後は、再出血予防のために絶対安静を保ち、重症度の判定と再出血予防処置の選択を行い、ケアを実施する。

出典:『ICU版 意味づけ 経験値でわかる病態生理看護過程』日総研[pdf]

再出血を防ぐために具体的に行われる処置としては、まず集中治療室などで脳圧を下げるための治療が行われます。さらに、可能な場合はコイルを使って脳動脈瘤を防ぐ血管内治療や、脳動脈瘤頸部クリッピング術と呼ばれる外科手術が行われます。くも膜下出血が軽度の場合は、発症から24時間の最も再出血率が高い期間を安静に過ごして再出血を予防したうえで、外科治療を行うこともあります。

また、外科手術を行う場合にも、再出血を予防するために不要な刺激を患者に与えずに、安静にしたうえで高圧療法や鎮痛・鎮静処置を事前にとることとなります。さらに外科手術後は、血圧を低めにコントロールし、再出血を予防します。

出典:日本神経治療学会『脳卒中治療ガイドライン2009-Ⅳ.くも膜下出血』[pdf]

再出血を予防処置ができない人もいる?

くも膜下出血の再出血は最初の1ヶ月で20〜30%の割合で起こると言われています。 とはいえ、くも膜下出血の症状が重い場合は、外科的治療や血管内治療で再出血の予防処置ができない場合もあります。比較的軽症の場合は、年齢や全身合併症などをチェックし、発症から72時間以内に再出血予防処置を行うことが推奨されています。また、「比較的重症」とされるケースで、合併している水頭症や脳内血腫の治療に有効と判断された場合には、外科的治療で再出血予防処置を行うことが多いです。

外科手術と血管内治療どちらがいいの?

再出血を予防するためには、前述したように外科手術と血管内治療、いずれかの方法を選択することとなります。

日本では、再出血を防ぐための方法として外科的治療が選択されることが多いです。ただし、くも膜下出血発症後に血管内治療と外科的治療、どちらも選択できる状態の患者に対して行った治療方法別の無障害生存率は、血管内治療の方が高かったという海外の研究も報告されています。だからと言って、血管内治療がベストかというとそうとも言い切れません。動脈瘤を治療した患者の予後を長期スパンで追った研究では、長期再出血率は、血管内治療の方が少し高い傾向にあったという報告もあるからです。

血管内治療は、大腿動脈からマイクロカテーテルを動脈瘤の中に入れ、コイルを動脈瘤の中に詰める「コイル塞栓術」と呼ばれる方法が一般的です。

出典:日本神経治療学会『脳卒中治療ガイドライン2009-Ⅳ.くも膜下出血』[pdf]

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くも膜下出血の合併症脳血管攣縮とは

脳血管攣縮は、その名の通り、脳の血管が攣縮(縮んでしまうこと)し、血液の流れが悪くなってしまう状態を指します。原因ははっきり分かっていませんが、血管が破裂して傷ついたことによる防御反応、大量の血液に触れたことによる反応などといった説があります。

発症時期とその症状

くも膜下出血からの回復期が血管攣縮になりやすい時期

脳血管攣縮は、くも膜下出血の合併症の一つですが、くも膜下出血の直後に起こることはあまりありません。約4日後~数週間後位に発症することが多く、30~70%と高い確率で発症します。

血管が縮んで脳内の血液の流れが悪くなる病気ですので、手足のしびれやろれつが回らなくなる、思考がはっきりしないなど脳梗塞に良く似た症状が現れます。重症度の血管攣縮が起こると脳梗塞の状態となり、治療後も麻痺などの後遺症が残る危険性があります。あるいは完全に流れが止まってしまうと、5分間で脳が酸欠になり、死亡状態になってしまうこともあるのです。

脳血管攣縮の程度と予後

脳血管攣縮が起こりやすい状態とは?後遺症の有無は?

くも膜下出血後の脳血管攣縮について相関関係はあるとされているものの、はっきりとした原因は分かっていません。ただし、出血量が多かった人ほど脳血管攣縮の程度が強く現れやすいことが分かっています。普段髄液に満たされている脳が血液にさらされること、また破裂によって脳血管が損傷したことに対する防御反応ではないかとも言われています。

血管攣縮が起こることによって血管が非常に細い状態となるため、血液の流れが格段に低下します。脳梗塞と同じような状態です。血流が低い状態が長時間続くと、脳細胞に酸素が行きわたらず、一部が壊死してしまうこともあります。そうなると血管攣縮が回復しても、半身麻痺や言語障害(壊死した部分によって障害は異なります)が残ってしまう可能性があります。くも膜下出血から血管攣縮を起こした人のうち、10%程度が脳梗塞を起こしているという研究データもあるようです。

治療方法

血管攣縮からの脳梗塞を防ぐための治療が基本

くも膜下出血発症後の脳血管攣縮の予防法・治療法には大きく分けて以下の2つがあります。

血液を流れやすくする(脳血流を増やす・血液をサラサラにする)

血管攣縮による脳梗塞の予防のために、くも膜下出血発症直後から抗凝固剤をはじめとした点滴・経口投与などの処置が行われるのが一般的です。血管攣縮が起こった後も、基本的には栄養と水分を十分に摂取し、血液が十分に脳内を流れるような治療を行います。カルシウム遮断薬などは、科学的実験によって効果が実証されているようです。

細くなった血管を広げる

また、血管攣縮によって細くなってしまった血管を広げて血液が流れやすくなるようにする治療もあります。血管拡張剤(塩化パパベリンなど)の投与などがそれに当たります。薬での治療を行っても症状が改善されない場合は、細い管の先に風船のようなものがついたバルーンカテーテルによって、血管を物理的に膨らませて広げる治療が行われます。

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血管攣縮とEPA

血管の異常収縮(攣縮)の予防が期待できる新しい方法

血管攣縮にはくも膜下出血からの合併症の他、心臓トラブルの一つとして血管攣縮を起こす場合もあり、その場合は心筋梗塞にかかるリスクが高いようです。

近年、山口大学小林誠教授のチームが血管攣縮を起こすメカニズムやその予防法を研究しており、血管攣縮の要因としてSPC(スフィンゴシルホスホリルコリン)という物質の働きが関係していること、またイワシなどの青魚に多く含まれているEPA(エイコサペンタエン酸)が血管攣縮を防ぐ効果が高いという発表がありました。

このEPAは、正常な血管の収縮まで抑制してしまう従来の治療法に比べ、異常な収縮(攣縮)のみを阻害するという臨床実験結果が出されており、今後の血管攣縮治療に役立つとして期待されています。

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くも膜下出血の合併症水頭症とは

くも膜下出血の合併症として多く生じるものが水頭症です。出血があった影響で脳脊髄液の流れが悪くなり、脳のすきまに髄液がたまることによって起こります。

水頭症とは

そもそも水頭症はどんな病気?

脳を衝撃から守る脳脊髄液は、絶えず循環し、新しく入れ替わっています。その経過において、余計にたまったり、流れが遮られたりすると、脳の働きが悪くなります。この状態は水頭症と呼んでいます。くも膜下出血において、脳脊髄液の吸収が阻害されて、脳脊髄液が脳室内に溜まってしまいます。

水頭症の発症時期

水頭症の発症時期は、くも膜下出血初期と手術後の脳血管攣縮の終わったころによく見られます。発症する時期により急性期の水頭症と慢性期の水頭症に分類できます。

急性期の水頭症

急性期の水頭症はくも膜下出血初期に発症します。くも膜下腔や脳室内に入り込んだ血腫により脳脊髄液がたまり、その結果、頭蓋内圧亢進状態に。比較的急速に意識障害が進みます。

慢性期の水頭症

慢性期に徐々に進行する水頭症は正常圧水頭症といわれ、脳脊髄液の吸収障害が原因だと考えられます。くも膜下出血の手術後、脳血管攣縮の時期も終わったころに発症します。頭部CTで判断可能で、たいていの場合、治療により症状が改善されます。

水頭症の症状と影響

歩行障害、尿失禁、認知障害の「三徴」があります

水頭症の症状は歩行障害、尿失禁、認知障害があります。この三つの症状は特徴的で、三徴(trias)と言われます。歩行障害はほぼ必発で、最初の段階で現れます。認知症は80-90%ほど、尿失禁は60-80%弱程度で発症します。三徴が揃うのは60%程度となっています。

歩行障害:振戦を伴わない小股歩き、開脚がゆっくり
尿失禁:初期から尿意が伴わない真性尿失禁は少ないですが、歩行障害が原因でトイレに着くまで我慢できなくなる切迫尿失禁はしばしば見られる
認知障害:記憶力・集中力低下、無気力・無関心といった認識レベルの低下

水頭症による障害の症状やリハビリ方法をチェック

水頭症の治療

水頭症の治療方法は急性期と慢性期で異なる

急性の場合は頭蓋内圧亢進を招き、生命の危険を伴うので、緊急的に脳脊髄液を脳の外へ排出させる手術(脳室ドレナージや持続脊髄ドレナージ)を行うことが多いです。脳脊髄液を体外に排出して頭蓋内圧をコントロールします。
慢性の場合、体内にチューブを埋め込み、たまった脳脊髄液を脳から腹まで流していくというシャント手術が一般的に行われます。

シャント手術のリスクは?

シャント手術は簡便で確実に障害が改善される治療方法ですが、シャントシステムの閉塞や硬膜下血腫が生じるリスクも伴います。さらに、チューブを入れた場合、菌やウィルスがチューブによって脳や脊髄に入ってしまうと、感染症にかかる恐れもあります。手術はリスクがあるものですが、歩行障害や尿失禁は本人のみならず介護する側にとっても生活の質(QOL)に大きく関係するため、手術の現実的なメリットは大きいです。家族で慎重に検討してみましょう。
手術後、一時的に痴呆に似た状態がみられることがありますが、これは手術の影響で意識レベルが一時的に下がっているものです。術後1週間~10日間程度でほぼ消えます。

水頭症の予後

手術により脳にたまった脳脊髄液が排出され、症状は改善されたり、悪化傾向が止まったりします。とはいえあらゆる治療の効果は100%ではありません。手術後、客観的には歩行障害の改善が最も期待でき、術後半年〜1年の判定で、70-90%のケースで改善が認められています。尿失禁は40-80%、認知症の改善度は40〜80%と言われています。水頭症の症状が後遺症として残された場合、継続的なリハビリや通院が必要となります。

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