会話だけでなく読み書きにまで影響する後遺症
くも膜下出血を発症したことで脳の言語領域にダメージを受けると、言語障害が起こります。症状は、会話ができなくなること以外に、読み書きができなくなる、聞いても理解するまでに時間がかかるなど言語全般に関するものです。言語障害を持つ家族とどのようにコミュニケーションをとればよいのか見ていきましょう。
言語障害は大きく分けて2種類
言語障害は失語症と運動障害性構音障害があります。失語症は言語能力全般に関する障害であるのに対して、運動障害性構音障害は話すことの障害です。それぞれの特徴を紹介します。
失語症
失語症と聞くと、言葉を話せない状態のことを思い浮かべるかもしれませんが、話すことだけでなく、読み書きや聞いて理解することも難しくなります。くも膜下出血などの脳卒中により、脳の言語領域に影響を受けることで言葉が上手く使えなくなることが原因です。また、言語に関する能力以外は正常にもかかわらず、見た目の症状が似ていることから認知症と間違われることもあります。
失語症は、症状や損傷部位によって分類することが可能です。一般的にはブローカ失語、ウェルニッケ失語、全失語、健忘失語、伝導失語の5タイプに分けられます。
運動性失語と呼ばれるタイプで、片麻痺などの身体症状を伴うケースで多く見られる失語症です。ブローカ失語は脳のブローカ領域と呼ばれる部分に障害が残り引き起こされる失語症で、言いたい言葉がなかなか出てこなかったり、うまく言葉が発せずにぎこちない話し方になったります。ただし、聞いた言葉を理解することはできています。
感覚性失語と呼ばれるタイプです。ウェルニッケ失語は、言葉をなめらかに発することはできるものの、言い間違いが多い、聞いた言葉を理解することが難しい、などの特徴があります。
混合性失語と呼ばれるタイプの失語症です。ブローカ失語とウェルニッケ失語を同時に発症しているケースで、失語症の中では重度の障害がさまざまな言語機能に見られるタイプです。
健忘失語とは読んで字のごとく、見たものの名前を思い出したり、名前から具体的にものをイメージしたりすることが難しくなる失語症です。場合によっては特定のジャンルの言葉だけに症状が見られることもあります。ただし、言葉を言い換えれば話を続けることは可能です。
言葉を理解することはできるのですが、言い間違い・書き間違いが多くなるタイプの失語症です。例えば『太鼓』が「たいきょ」になってしまったり、『机』を「つくき」と言い間違ってしまったりするのが伝導失語です。
失語症の方とのコミュニケーションをとるためにも、またリハビリをするためにも、これらの失語症のタイプを理解することが大切です。一般的には失語症のリハビリを行う前にさまざまなテストを用いて、失語症のタイプ、障害が起こる場所を探り、リハビリプログラムを組み立てていきます。
運動障害性構音障害
脳卒中によって、舌や声帯などの動きが悪くなったり、それらを上手に制御できなくなったりすることで起こるのが運動障害性構音障害です。代表的な症状として、大声を出せない、声がかすれる、ろれつが回らないなどが見られます。
この障害は、脳卒中を何度も繰り返している方に見られることが特徴です。また、前述した失語症が言語能力全般の障害であるのに対して、運動障害性構音障害は話すことの障害。そのため、書くことでコミュニケーションをとることができます。
また、脳卒中の場所によっては、運動障害性構音障害と失語症が併発することもあるでしょう。その場合は、発音の不明瞭さなどからどちらの症状が重いか判断し、適切な対応を選びます。
失語症のリハビリ方法とは?
失語症では最初に失語症検査を実施して、重度、中等度、軽度など重症度を把握するところからリハビリを始めます。症状に応じて訓練計画が立てられ、毎日30分~1時間程度の訓練を行っていくのです。そして、ある程度実施したところで再度失語症検査を行い、改善の見込みがある場合は訓練を続けていきます。
実施訓練は、発話訓練、復唱訓練、音読訓練、視覚的理解力訓練、呼称訓練、読解訓練、書字訓練、実用的コミュニケーションが代表的です。それでは、ここにあげた実施訓練の内容をひとつずつ、詳しく見ていきましょう。
ブローカ失語や全失語のように言葉をなめらかに話せない場合に、行われる訓練です。舌や唇、声帯などの発声・発語器官の麻痺が原因で発語が乱れることがあります。この場合は、口を動かし言葉を発するための練習に主軸を置いた発話訓練が用いられます。
話す訓練の一つで、言葉を聞いてそのあと復唱することで正しく言葉を話せるようにするための訓練です。ウェルニッケ失語やブローカ失語の方のリハビリとして用いられます。
文字を書き、それを声に出して読むことで音を頭の中でイメージできるようにする訓練です。訓練は、次に紹介する呼称訓練とセットで行うこともあります。
例えば写真や絵の描かれたカードを出して、その名前を言えるように練習するのが呼称訓練です。
障害の程度に合わせて単語や短文を聞き、該当する絵カードを選んだりします。
言葉の理解に障害がみられるウェルニッケ失語や、全失語の方に用いられるリハビリです。言葉の意味を理解することが目的で、文章を読んで要約する、文字が書かれたカードから対応する絵やカードを選ぶなどの方法が用いられます。
その名の通り文字を書く訓練です。全失語の場合は、書字訓練から始めることが多いです。ブローカ失語やウェルニッケ失語でもリハビリの最後の段階で書字訓練が用いられます。
周囲とコミュニケーションが図れるようになることに主軸を置いたリハビリです。障害の程度が重く、発話が難しい場合でもイエス・ノーの伝え方を工夫することでコミュニケーションが図れるようになります。
参考:『シンポジウム:臨床の技(スキル) 失語症』高次脳機能研究 第29巻第2号/
これらの訓練のなかから、言語聴覚士が患者さんの障害に応じたものを選んでいきます。
家族の理解と協力が回復には欠かせない
失語症の患者さんは、言葉以外の能力は正常です。子ども扱いしてしまうと相手のプライドを傷つけてしまうことになるため、言動にはじゅうぶん気をつかってください。脳卒中を境に言語障害を抱えたことで、不安感やもどかしさを抱えていることを理解してコミュニケーションを取りましょう。
たとえば、聞いて理解することに障害がある場合は、ゆっくりとわかりやすく話す、要点や文字を絵で示す、実物を見せるなどが効果的です。また、患者さんの意欲を損なう行動には注意しましょう。自分が良かれと思って先回りして発言してしまうと、積極的に話せなくなってしまいます。失語症の症状は、発症から1年後には固定すると言われているため、言語聴覚士と家族が連携して治療に臨むことが大切です。